2010年 08月 19日
スピーカのカウンター駆動
タイムドメインがYoshii-9でユニットのほぼ真横を聴取位置とする使い方を打ち出し、これに便乗して「波動スピーカ」なんてのも登場してきた昨今、そして何と言っても正統派オーディオが絶滅に瀕している今なら、こういう自由なスタイルの提唱もアリかと勇気を貰った。
スピーカの振動板は空気を駆動する際に反作用を受ける。反作用は磁気回路からフレームへ伝わり、バッフルを揺らす。このためスピーカユニットのフレームや箱には剛性が求められ、かつそこそこの重量と、しっかりと踏ん張る床が求められた。
1980年代、江川三郎氏が「マス・サスペンション」という名で磁気回路にデッドマスを付加して磁気回路の段階で反作用による振動を抑え込むという実験を報告した。この時点で「ふたつのスピーカユニットを背中合わせに動作させれば無限大質量等価になる」事に気づいた人は少なくないだろう。
これはまさにスピーカのカウンター駆動である。LRのユニットを背中で連結して干渉させればステージ1、Lのみ、Rのみでそれぞれ完全に反作用をキャンセルすればステージ2。アンプのカウンター駆動と全く同じだ。本来ならユニットの背面同士を直接接着するのがよいのだろうが、設計の自由度と磁気回路同士の反発緩和を鑑みると魂柱による連結が次善と思われる。
さて実際に作ってみようと思い立ったはいいが、木工は苦手だ。第一、設備がない。そのうえ手先が不器用で図画工作2の腕前だ。それがこれまで自分でスピーカ製作をしなかった最大の理由。「最大」というからには次点もある。面倒くさい(笑)。
スピーカをカウンター駆動にすれば反作用による振動から開放される。スピーカボックスが大地にしっかり根を張っていなくても、極端な話、コロサスペンションや中空に吊られていても、アタック感の「押し」は失われない。そしてバッフルは鳴かない(音圧による鳴きは出るが、フレームから伝わる反作用振動はない)。
だったらむしろヤワい箱でこそデモ効果はあるんじゃないか。と自分に言い訳をして、あろう事か段ボール箱で試作をした。カッターで穴が開けられるってのは楽でいいね(笑)。魂柱もなるべくなら剛性が高く音速が大きい金属材料がよいと思うのだが、お手軽な実験という事で木の角材を使ってみた。
多少のこだわりをもって最初はステージ2で作ってみたいと思った。でも箱をふたつ作るの面倒だし、同じ箱をふたつ用意するのも大変そうなのでひとつの箱でできる方法を考えた。さすがに音源が集中すると広がり感が出ないからマトリクスでいくか。というわけで試作0号"Matori+"(matoricross)を作ってみた。
こんなふうに魂柱が入っている。
魂柱でつながれたユニットにL+R信号を入れ、左右のユニットにはそれぞれL-R,R-Lを入れてやれば全方位型ステレオスピーカの完成…の筈だった。しかし、この方式ではD級アンプ「鎌ベイアンプ」ではまともに駆動できない事が判明した。このスピーカは駆動するのに専用のアンプを用意してやらなければならないのだ。それではしょうがないので次の試作へと即座に移行。Matori+は僅か5分で解体された。
で、試作1号"sokon"。6ユニット構成で出直し。ただし6ユニット構成でもやはり鎌ベイアンプでは差信号ユニットが歪んでしまって使い物にはならなかったのだった。仕方ないのでSEPPオリエント駆動アンプ用と割り切って配線。
ダイトーボイスAR-7を4個しか用意してなかったので差信号用にStereo誌7月号の付録ユニットを使った。これはいずれAR-7を補充して完成させる予定。付録ユニットも一度はまともに使わないと評価できないし。中はこんな感じ。
実物はこんなふう。
よく見ると柱をちょっと短く切り出してしまって、ゲタを入れてあったり(汗)。
狙ったとは言え、凄いスピーカができてしまった。布団の上に置こうが、手に持って空中に浮かせようがアタック感がまるで殺がれない。そして意外なぐらいの低音感。この口径にこの容積、f特的には150Hzだって出てるか怪しいと思うのだが、やはり無限大等価バッフルも効いているのだ。
魂柱のない差信号ユニットのフレームの留めネジに指先を当てると激しく振動しているのが分かる。しかし魂柱のあるメインユニットのネジの振動は極めて少ない。音圧による振動のみになっているのだ。木の細い角材の間に合わせ魂柱でどこまでいけるかと不安だったが、実用上充分な効果があるようだ。
しかしさすが段ボール箱、音圧で呼吸運動してしまうので天板がやたらびんびん振動している。ふと近くにあった本を置いてみた。
これが大当たり。更に1ランク上の音に化けやがった(笑)。
このみすぼらしい外観と出る音のギャップが楽しくて、近くに住んでいる人に片っ端から聴いてみて貰っていたら、小劇場の芝居公演のスピーカに使ってみたいと申し出られて現在松本へ貸し出し中。全方位型のスピーカって何に使えるのか、どんな役に立つのか自分でも模索中だった所へこの申し出はとても嬉しかった。どんな音が出ているのか、本番が楽しみだ。
松本「信濃ギャラリー」の天井に吊られている様子。新ユニット「プリンプリンビューティークリニック」の「風葬コース」にてご使用戴いた。
普通のスピーカはこんな風に紐吊りにすると踏ん張りが利かずアタック感のない腑抜けた音になってしまうが、カウンタースピーカは本体内で反作用をキャンセルするので吊りで使われてもアタック感が失われず「押し」のある音が出る。そして無限大等価バッフルが効くので中空に置かれても低音の痩せがない…ただし小さいスピーカなれば元々そんなに低音は出ないんだけど。
正直、6m×12mぐらいありそうな部屋をこれ一台で賄うのは少々苦しそうな音を出してはいたが、ギリギリ許容範囲だったようだ。こんな特殊なスピーカはどんな役に立つのだろうと僕自身悩んでいたところへ今回の申し出のおかげで早々に実験ができた。このスピーカはこれまでのスピーカの置き換えではなく、全く異なる使い方に売り込んでいけそうだ。
と、いうわけで「風葬コース」の記事にトラックバック。
先日の東京行きの際、秋葉原でAR-7を補充してきた。本体を松本から持ち帰って差信号ユニットをAR-7に交換して試作1号機"sokon"はやっと完成した。
尤も、差信号ユニットが変わっても音の印象に変化は感じられない。差信号ユニットはもっと安物でもいいか、もしかしたらなくてもいいのかも知れない。試作1号はオリエント駆動のアンプ対象になってしまっていたからカウンター駆動ステージ2のアンプでも使える8ユニット版を考えていたが、そこまでやったもんかちと迷い中。
次はユニット2個のステージ1を試してみなくては。6ユニット構成でもやっぱり鎌ベイアンプでは差信号ユニットが歪みまくりで使えなかった。8ユニット構成にすれぱ問題なくなるのだが、アンプまでフルカウンター駆動を、しかもお安く実現するためにはまず2ユニット構成のステージ1モデルをやってみる価値がある気がする。
8/27'10
試作2号。
ステージ1で使えて、2台用意すればステージ2でも使えるという試作の、とりあえずまともな音がするのか確認のための1台目。
容積は小さいし、ユニットも更に安物なので低音も高音も1号程出ないが、ステージ1でもカウンター効果は手応えを感じられた。これならもう1台作ってもよさそうだ。そのために複数在庫のあるこの箱を使った(笑)。
後日、魂柱の入ってないver.も作ってみた。意外に段ボールの「鳴き」が多くなくて、それ単体ならそこそこ聞けてしまうので驚いたが、魂柱アリ版と比較するとアタックが「ゆるい」のがはっきり判る。しかしやはり安物過ぎるユニットによる試作は二度手間かも知れない。このドリンク箱の容積は1号機の半分より大きい。という事はAR-7で作れば1号機に劣らない程度には低音も出る筈。やはり、やるべきか。
この軽さで、吊ってもアタックを殺がれない、中空に置いても低音が痩せない、これはスピーカの歴史を変えてしまうかも知れない。なんで今までやらなかったんだ。やはりスピーカの(特に自作アマチュアの)世界では長岡氏の模倣しかされてなかったという事なのだろうか。「魂柱」っていうヴァイオリン内部の部品の名前をスピーカに持ち込んだのは長岡氏だったと記憶してるんだけど、バッフルと裏板をつなぐ事までしか思いつかなかったのか、このスタイルが紹介された記憶はない。江川氏ならやりそうな気もするのだが、長岡氏に気を使ってスピーカには深入りしなかったのだろうか。
ちょっとカミングアウト。
ずっと温めていたこのネタを実験してみようと思い立ったのは論文ネタに詰まったからではあるが、直近に愛車Swiftにストラット・タワーバーを入れた際の嬉しさで心に「突っ張り棒ブラボー!」という勢いがあった事は多分間違いない。
10月、うちの近所に知人が店を開いた。「欧風食堂ビストロトマト」。ここのBGM用に試作2型の8番機が採用された。まあ試作機でもあるし、いつまで使って貰えるかはわからないけど、今の所朗々といい感じに鳴ってる。やはりこういう用途に適しているのだと実感できた。8cm一発(ステレオだからユニット2個だけど)で小さな飲食店のBGM用ぐらいなら耐えるというのは大きな実績だ。
試作2.8号のユニットはAR-7。黒でまとめたかったがAR-7でないとどうにも低音が寂し過ぎた。箱はいつも通りドリンク剤の箱だが、黒をご所望だったので黒い布ガムテープで巻いてみた。麻紐を通して吊り仕様。実は底面だけはむき出しのまま、ビリつき防止用に「すきまテープ」(幅15mm厚さ10mmのスポンジテープ)でゲタの歯みたいな感じに「脚」をつけてある。
軽いから高所の取り付けも容易(ねじ込み式のフック金具1本)だし、紙だから万一落ちても怪我をし難いというのも長所と言えるかな(笑)。
そして、実はこれを作った時既にうちにはAR-7による2.3号があった。細部の仕様は微妙に異なるがこの2台でステージ2を試したところ、そこには「更にそのまた上」の世界が開けていたのだった。どこまで行くんだカウンタースピーカ。
スピーカのカウンター駆動 試作2型を「欲しい」という方が何人かいるので調子に乗って製作教室を不定期に開いてみようかと考え始めている。受注生産にするとものぐさな僕の事だから年単位で待たせるのは必至だから(苦笑)。それでもいい人の注文は受けるけど、すぐ欲しい人は製作教室で自分で作るべし。 半田作業が入るといきなりハードルが上がるので、ハーネス(配線材)はこちらで用意して、半田作業は一切ナシにする予定。これにより対象年齢は中学生以上。勿論、かつてオーディオが趣味だったお父さんが親子で来てもい...... more
カウンタースピーカ試作3型は「外郭カウンター」を採用した。 カウンタースピーカは本来、背中合わせに配置されたふたつのスピーカユニットの磁気回路同士を魂柱で結合する。振動板駆動時に磁気回路が受ける反作用をどこにも伝えずに磁気回路の段階でキャンセルするためだ。 なのだが、外郭カウンターは、ユニット直結ではなく「箱」レヴェルの結合によって磁気回路からユニットのフレーム~バッフル板~筐体を介してカウンター効果を得ようというものだ。 当然、本来のカウンタースピーカからすればかなり不本意な邪...... more
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