2011年 06月 12日
外郭カウンター
カウンタースピーカ試作3型は「外郭カウンター」を試してみた。最初「外殻」という文字をイメージしていたが、最初の変換候補だった「外郭」を見て、その「遠回り感」がむしろ合っていると思い、「外郭」にした。
カウンタースピーカは本来、背中合わせに配置されたふたつのスピーカユニットの磁気回路同士を魂柱で結合する。振動板駆動時に磁気回路が受ける反作用をどこにも伝えずに磁気回路の段階でキャンセルするためだ。
なのだが、外郭カウンターは、ユニット直結ではなく「箱」レヴェルの結合によって磁気回路からユニットのフレーム~バッフル板~筐体を介してカウンター効果を得ようというものだ。
カウンタースピーカ本来の志からすればかなり不本意な邪道なのだが、既存のスピーカBOXを結合するだけでできてしまうというお手軽さは捨て難い。そして直結には及ばぬまでもカウンター効果は「多少は」得られると期待して試作してみたのだった。
試作3.0型"Frameworks"は試作なれど、日本初のソフトボール専門バッティングセンター"SLAP SHOT"(山梨県昭和町)のロビーのBGM用スピーカとして企画した。
ユニットはToptoneと思われるF100A123-2。これをダイトーボイスSV-101(φ95)に入れ、グリルネットを装着。
普段ならば内部配線材は箱に附属の細いものは使わずベルデン8470あたりにすればこんな安いスピーカでも劇的に音質が改善するのは判っているのだが、今回は「生産性」「再現性」「継続性」を重視しなければならないため、一品モノの手作りスピーカは不適切と判断した。そこで費用対効果を考えて既製品をベースに最小限の手間を加えて完成する外郭カウンターを試してみようという事になったのだ。
画像は以前当家メインシステム用にこの箱を使った時の、箱附属純正ケーブルからベルデン8470に交換した時の画像。本当はこのぐらいはやりたかったし、あと数百円高価いユニットなんぞも使ってみたかったさ。しかしそれらは今回やる事ではなかった。
で、できた試作品がこれ。あんまりにも簡単で笑ってしまう。重量は実測で約3Kg。試作2型は710gだったから、9mm厚とは言えやはり木箱はちょっぴり贅沢(笑)。
横から。
ななめ上から。
さて、困った事にたった9mm厚のパーチクルボードのこの箱を使った外郭カウンターでカウンター効果は殆ど魂柱を使ったのと遜色ないぐらい得られてしまったのだ。勿論、ヤワな箱に脆弱な薄板金フレームである。魂柱を使えばもっとよくなる可能性はあると思うのだが、このいかにも安物らしいチープな音で鳴っていたスピーカシステム(と呼ぶのさえ憚られるような!:苦笑)はホームセンターで178円の穴あきフレーム材2本で留められた途端、単体の状態から「豹変」した。正面特性で聴けばこの安物ユニットの高域の暴れなんかもしっかり聴こえてしまうのだが、カウンタースピーカとしてステージ1で聴く時は基本、正面特性で聴かない。そのせいか高域の暴れも気にならず、実に「音楽」を楽しめるスピーカになってしまったのだ。
そして低音のタイトな鳴りっぷりはこれまでそのために厚い板を使い重い箱を作ってきた歴史を笑い飛ばすかのようだ。特性的には150Hzまでだってフラットには出てないだろう。更にバスレフだからポート共鳴周波数以下はかなりすっぱり落ちている筈だ。決して「重低音」なんて音域までは充分に出てはいない筈なのに、ずっしりと腹に響く。従来型スピーカなら余程ごつい箱に入れてしっかりした床に踏ん張らなければ得られない音だ。タイムドメインYoshii-9の「全然出てない筈なのに凄い低音感」の秘密を解明してしまったかも知れない。
このスピーカはとある催事にも使ってみた。15m四方もあろうかというホールのBGMをこれひと組で賄おうというのだ。
こんな風に柱の裏側に置いて目立たないように鳴らしてみた。
ホール側から見るとこんな感じ。これでホール全体に朗々と鳴り渡る。まさにカウンタースピーカの「鳴り」っぷりだった。催事は大成功、試作も成功、これで納品可能と判断した。
さていよいよSLAP SHOTの建屋が完成し、納品時期が近づいた。まずは前面グリルを装着。
グリルにも値段がついているので試作段階ではそこまで買わずに評価していた。これで晴れて納品仕様の完成である。
そして残りの部材を注文し、一気に生産(タイミング的にはグリルはこの時発注した)。
何と言う楽さ。かなり疲れた体でこの3台が1時間ちょっとで組みあがってしまった。ひとつ小さいのは3.1型。トイレの前に専用スピーカを設けてBGMを流し、無駄な水を流さなくていいようにというオーナーのエコな配慮。
カウンタースピーカは「吊り」に強い。反作用をキャンセルしているので大地(床)に「踏ん張る」必要がなく、吊りで使ってもアタックが殺がれる事がない。むしろ先に「吊り」前提という事があってカウンタースピーカの採用を最初から決めたという順番だった。
傾かないよう片側に鎖2本で△型に吊るつもりでいたが、さすがプロ、見事にセンター1本吊りにしてくれた。これまでのスピーカならこんなぷらんぷらんの状態でまともな音なんか出やしない。
以下、最終配備された状態を何枚か。
受付カウンターのあたり。奥にもう1台見える。なんか思ってた以上にカッコよく見えるのはヒイキ目だろうか。
入り口入ってすぐの眺め。3基揃い踏みが見える。
受付カウンター前から入り口を見た景色。
かつての難敵、ジュークボックスとツーショット。これの「なんちゃってレストア」の仕事ぶりが気に入られて今回のご指名になった。大変だったけど、頑張ってよかった。
元々かなりライヴながら響きが割ときれいなホールである。ここで天井から降り注ぐ質の高い音楽はかなりキモチいい。尤も、オープンしてしまえばここは「音楽を聴く場所」ではない。本当の評価はオープンしてからって事になるのだが。とりあえず安価なD級アンプで駆動されたこれまた安価なスピーカがこの空間を「音楽で満たす」快感にひととき酔いしれた。本当のところ、この音質はワガママ言って全面採用したカナレ4S8(エコ)も少なからず貢献しているに違いない。録音スタジオ級の贅沢な配線だ。ベルデン8470と迷ったのだが、長さに強いStarQuadにした。それに何より4S8の方が単価が安いのだ、太いのに。
本当は、外郭カウンターなんて邪道という意識は今もある。しかし実用的には「充分」と言ってもいいぐらいの改善が得られ、しかもこのお手軽さ。不本意だが、これも選択肢のひとつとして認めざるを得ない。
先の段ボール箱の実験と今回とで、スピーカの箱の振動というか音を濁す「鳴き」は箱内の音圧ではなく、反作用振動によるものが支配的であった事が証明できた。
今度はこの基本構造で「一品モノ」の音質重視版を作ってみなくては。
魂柱のないタイプは今では「波動スピーカ」が代表格ですが元祖はボーズ901だと思っています。魂柱を使うタイプはKEF他ウーファに使った製品はいくつか見た覚えがあります。
なので、自分が最初の発明者だとは思ってないのでご安心下さい。