2012年 01月 02日
カウンタースピーカを作ってみよう
カウンタースピーカ試作2型は主に栄養ドリンク剤(100cc)の10本入りの箱を使っている。ここではそのドリンク剤箱による作製を紹介する。興味のある人は是非実際に作ってみるといい。
[2型で最初のAR-7版、2.3号(2型3番機)。]
画像はおいおい増やしていく予定。
ユニット>
ダイトーボイスのAR-7(8Ω)を使用。試作なので安いユニットを適当に見繕って使ったのだがこれがなかなかにアタリで試作品にして充分実用に耐えるクオリティを見せてくれたので、そのまま標準とした。将来的にはもうちょっと高級なユニットでも試作してみたいが結構満足してしまっているので高価なユニットになかなか手が出ない。
コイズミ無線や千石電商にて通販で入手可能。1個千円ぐらい。いずれFostex FF85WKなんかも試してみたいと思ってはいる。
補強>
まず、箱を補強する。最初の試作では補強などせずに作ったが、そこそこいい音がした。しかしやはり補強するともうちょっといい音がすると判ってしまったので精神的に負担にならない程度に補強する事にしている。
紙同士の接着は木工ボンドがおすすめ。うちでは速乾タイプを使っている。
側板はホットボンドでチョン付けされているので一度はがして貼り直す。最初それに気づかず音量を上げた時にビリつくので悩んだ。
段ボールは「目」を直交させて張り合わせるととても硬くなる。またボール紙を_Λ_の形に折って貼るのも有効。うちでは菓子やレトルト食品の箱(ボール紙)を捨てずにとっておいてΛ補強材として再利用する事が多い。
ユニット取り付け穴をくりぬいた板も有効に活用しよう。うちでは抜き板は側板か底の補強に使う事が多い。
[箱内補強の例(2.10号)]
穴あけ>
両側の同じ位置に穴をあける。僕はいつも中央にあけているが、そうしなければならない制約は特にない。
中央にあける場合は側面と同じ大きさに型紙を取り、縦横に折ってセンターを出し、そこを中心に直径72mmの穴をあける。僕は手元にコンパスがなかったので4つ折り状態から更にもう1回折って8角形の穴をあけた。その型紙を箱に当ててマジックで穴の形を転写した。箱に直接描くには箱に補助線を描かなくてはならないのでそれを嫌った。センターを出すのにいちいち測らなくても半分に折るだけで事足りるのも楽だった。
ユニット取付>
ネジ穴は位置を決めたらポンチ穴をあけてやるとズレにくい。相手が段ボールならボールペンの先で充分。あまり強く締めると簡単にネジ穴が壊れるので注意。
ユニットをコイズミで買うとネジがついてくるが千石だとついてこない。千石の方が若干安かったのでネジは近所のホームセンターで買った。必要なネジはひと組に対し8本だがホームセンターでは60本入りで買わねばならないのでひと組だけ作るのならコイズミの方が安いかも知れない。
魂柱>
このスピーカのキモとなる部品。角材を切ってユニットの背面同士を連結する。うちでは角材は1.5cm×1.5cmぐらいのを使っているがもうちょっと太いのが使えればその方がいいかも。長さの目安は「少し押されるぐらい」。接着面に引っ張る力が加わるとはがれ易くなるのでユニット取付ネジを締め込む前にユニットの「耳」がバッフル面から1mm浮いているぐらいが理想。ネジ留めした際に魂柱が「押されている」ぐらいが望ましい。
ユニット背面と魂柱の接着は2液エポキシ推奨。うちではゆっくり作業するため30分硬化型を使用。
[魂柱装着(2.5号)]
完成後、強く掴むとバッフルのたわみにより魂柱の接着がねじ切れてしまう事がある。ユニットの取り付けがセンターでないと音圧による箱の呼吸振動で表裏バッフル面の平行が崩れる方向に力が加わり若干脱魂を起こし易くなるかも知れない。
ふたつのユニットの磁気回路は「剛着」しているのが理想なので魂柱にも金属棒を使いたかったが、加工が大変なので試作は加工の容易な角材を行った。しかしその効果は充分に説得力のあるものだった。最高級品には金属棒が望ましいのだろうが、このクラスには加工性優先の木の棒で充分だと思う。
ユニットの背面同士を直接接着できればそれが一番理想的ではあるのだが、外磁型磁気回路では互いの反発力が結構あるので実際的ではなく、次善の策として魂柱を導入した。これによりユニット同士の間隔がある程度任意になる(なるぺく短く済ませたい、というキモチはある)ので設計の自由度も増した。
配線>
線材はうちでは0.75□の平行軟銅線(いわゆる普通のスピーカ用として売られている赤黒の線)を標準に使用。太い線を使うと音がよくなるのも確認したが、作り易さ・使い易さも考慮してこの太さを標準に選んだ。うちでは半田付けで使っているがメンテ性重視ならファストン端子を使ってもいい。極性(+-)を間違えないように。
穴は箱の角に+ドライヴァーの先端をうりうりしてあける。外側は設置場所が決まっているなら必要な長さの尻尾を出してアンプに直接接続した方が音質的にはいいかも知れないが現在は汎用性重視で30cmのケーブルの先端に端子をつけるのを標準にしている。
[配線(2.12号)]
ところで、ユニットは通販で手に入るしケーブルはカーステレオの配線用にも使われているので近所のホームセンターでも買えるんだが、このスピーカ端子だけは今の所秋葉原に行かないと手に入らない。ユニットを通販してくれる店で買うのがなんとも不条理。一緒に通販してくれないもんだろうか。
吸音材>
本当なら専用の吸音フェルトを使うのがよいのだろうが、試作品では敢えて「紙」にこだわってみた。使用済みコピィ用紙A4×4枚を丸めて皺にしたものを詰めてみた。後に新聞紙でも試したがコピィ用紙より薄いのでA4×5~6枚が丁度いいようだ。使用済みコピィ用紙や新聞紙で間に合うのならわざわざお金を出してフェルトを買うまでもない。
紙には吸音性能はあまり期待できないと思うが、振動板背面からの音波が直接内壁に当たるのを防ぐ「拡散材」としての効果が大きいように思う。やみくもに詰めてただでさえ不足気味の内容積を更に減らしてしまっても愚かなので、詰め過ぎないように。箱内の平行面によるフラッターエコーを防げればいいぐらいの気持ちでいいと思う。厳密には箱内でガサガサ言っているのかも知れないがとりあえず実際にやってみて気にはなっていない。
[吸音材(2.11号では新聞紙)]
封止>
最後に蓋を閉じてできあがり。うちでは梱包用の透明ガムテープを使った。黒の布ガムテープで巻いて黒仕様に仕上げた事もある。白は下の地がうっすら透けるので二重巻きしないとダメかも。
[黒ガムテープ巻きにした例(2.8号)]
実は2.7号で紙の黒ガムテープを試したところ、重なる部分がはがれてきて大失敗した。重ねて貼るには布ガムテープでなくてはいかんようだ(かなり素人発言:苦笑)。
吊り仕様(オプション)>
カウンタースピーカは床に踏ん張る必要がないので「吊り」で使っても音質を損ねない。またAR-7仕様で700g程度と軽量のため吊りで使うのに好適だ。
[屋外のデモに使った例(2.3号+2.10号)。]
[天井吊りで芝居の音響に使われた例(2.5号)]
[壁掛け仕様にした2.8号。]
壁掛けで使う場合は製作段階で紐をつけておくとよい。荷造り用の麻紐で事足りた。紐を通す穴は千枚通しであけた。細い+の精密ドライヴァーでもいけるだろうが、角ではないのでズレ易いからそこは注意。穴は側面の、センターよりやや底寄りにあけ、紐の先には余ったボール紙を結んで抜け止めにする。
[うちでは吊り紐の末端はこんな感じ(2.8号)]
底面が壁に当たってビリつくのを防ぐため「足」をつける。「すきまテープ」で下駄の歯状に2本も貼っておけば充分だろう。
ステージ2>
できたカウンタースピーカは1台でステレオで使えるが、この状態が「カウンター駆動ステージ1」である。これを左右各1台使う「カウンター駆動ステージ2」にするとカウンター効果が100%発揮されると同時に、ユニットの正面特性で聴く事ができるようになる。
ステージ1ではその構造上直接音ではなく周囲で反射した間接音を聴く事になるがステーシ2では直接音を楽しむ事ができる。後方にも音を放射するので背後を塞ぐ配置はできないが、うまく配置すればコストからは考えられない再現力を発揮する。
ステージ1では左右の箱が共通になるので干渉が心配だったが、意外に気にならない。丸め紙を詰めたおかげで互いの振動板からの直接音が届かないせいだろうか。
[2.3号と2.8号でステージ2の実験をした時の記念写真。]
スピーカのカウンター駆動>
[カウンタースピーカの構造]
これまで段ボール箱のスピーカシステムはHi-fi用途に耐えられなかった。スピーカエンクロージャは硬くて重いものがよい結果を出していた。そしてどんなに重い箱であっても振動は床に伝わるため「しっかりした床」「しっかりした土台」「しっかりした地盤」が望まれた。スピーカシステム単体でクオリティが完結できなかった。
その問題の本質に最初に迫ったのは江川三郎氏ではないかと思う。1980年代前半だったと記憶しているが、ユニット背面に数Kgの真鍮の塊を剛着する「江川式マス・サスペンション」を実験・発表している。余談だが、この手法はずっと後にタイムドメインYoshii-9に応用され高い評価を得ている(吉井氏は独自に考案したのかも知れないが結果的に同じ仕組みに到達した)。
これを受け、スピーカシステムの音を濁すのは箱内の音圧による振動ではなく反作用由来の振動なのではないかと考え、ユニットの対向配置によりカウンター効果で反作用をキャンセルする構造を考案したのだが、実際に実験するまで30年近く放置してしまった。その間にこの構造はすでにKEF等の市販品に採用されて「既存技術」になってしまっていた。このBLOGに寄せられた情報によると江川氏自身も90年代にはカウンター構造に到達していたようだ。その頃僕は既に雑誌から学ぶ事がなくなり読まなくなっていたので直接は知らず残念だ。
また、魂柱を使わず「箱」を介して反作用をキャンセルする外郭カウンター構造も「波動スピーカ」の名でかなりの好評を得ている。この構造だとフレーム-バッフル-筐体を介してのキャンセルになるので箱やフレームの剛性が音質に影響すると考えられるが、製造は格段に簡便になるという利点は大きい。ある程度しっかりした箱を使えば魂柱を用いた場合との差はかなり小さくできる。そして外郭であってもスピーカシステム単体で反作用が処理できているので床以降に音質が依存する事もなく、クッションの上に置いても紐で吊ってもアタックが殺がれる事はない。床との相互作用を気にして高価なスタンド類にコストをかける必要もなくなる。紐で吊ってしまってよいのだ。
[外郭カウンター]
寡聞にして知らなかったがこの外郭カウンター構造も長岡鉄男氏によりかなり前に発表されていたらしい。思えばスピーカシステムに「魂柱」という名称を持ち込んだのも長岡氏であった。彼は箱鳴りの低減策としてバッフル板と裏板を魂柱で結合する実験を行い、期待した程の改善は得られなかったと報告している。これも音を濁すのが音圧由来の呼吸振動ではなかったという間接的な証拠となり得る。ちなみに、試作2型の段ボール箱でも魂柱を入れない試作をしてみた。魂柱の有無によるクオリティの差ははっきり判るものの「段ボール箱のスピーカ」としてはかなりまともな音が出た。こんなに剛性のない箱でも外郭結合によるカウンター効果が出るというのには驚いた。
カウンター駆動で箱の剛性に依らず反作用振動の抑制(排除)に成功した事により、段ボール箱でもHi-fi用として充分実用に足るエンクロージャが作れるようになった。
発音中の試作2型に触ると箱内の音圧によりかなり盛大に呼吸振動している。しかし段ボールは柔らかいので強い固有の「鳴き」を持たず、意外なぐらい音は濁らない。やはり音を濁していたのは反作用振動が主原因なのだと思う。勿論、しっかりした木箱で作れば更にいいのだが、何だか「割と普通」な音がしてあんまりインパクトがないのが欠点と言えば欠点かな(苦笑)。外郭カウンター試作機では9mm厚パーティクルボードの箱を使ったが従来なら重量級の箱でしか得られなかった低音の「押し」が得られている。
スピーカのカウンター駆動もアンプのカウンター駆動も、できてみればみんな既存技術で僕の「発明」と言える要素は全くないのであった。残念!
参考記事1「スピーカのカウンター駆動」
参考記事2「外郭カウンター」
その後、このブログに反響?を頂き、たくさんの方々からコメントをお寄せ頂きまして、その後も飽きずにSP作りを続けております。(下記URL)
http://www-prius.at.webry.info/theme/b05c56e3a5.html
カウンター駆動のスピーカー、面白そうですね、一度トライさせて下さい。山梨に転勤して来た当事は甲府に居ましたが、今は中央市に住んでいます。ブログを通じてお知り合いになれてとても光栄です…ありがとう御座いました m(_ _)m そのうち、甲府駅北口プラザビルB1F の「ビストロ トマト」訪れてみたいと思いま~す (^0^)ノ
それと、連絡先…ありがとう御座いました。
波動SP=外郭カウンター
その構造の意味する真の目的が見えてきました。
http://www-prius.at.webry.info/201011/article_5.html
上記URL内の自作波動SP、2台使っての試聴方法(左側の図)がまさしく…貴ブログのステージ2>を外郭カウンターで実証していることになる訳ですね… m(_ _)m ありがとうございます、勉強になります。
波動スピーカの通常の使われ方(ステージ1)ではLRの振動を干渉させているのに対し、「カウンター駆動ステージ2」ではL,Rそれぞれに1本ずつのカウカンタースピーカを配し、反作用を完全にキャンセルしようというものです。同時に、ユニットのひとつを正面特性で聴けるようになるので旧来のオーディオ者が求める「ピンポイント的な定位」も実現します。カウンタースピーカ(波動スピーカでも)の同じ物が2組あるのでしたら、一度お試し下さい。