2016年 02月 11日
覚書>歴史の中のカウンタースピーカ
Stereo誌2014年1月号。パワーアップしたLXA-OT3が付属した号だ。誌上では「デジタルアンプ」と呼称しているがスイッチングアンプはデジタル動作などしていない。立派なアナログアンプである。…という話ではない。
Stereo誌は技術寄りとは言い難い雑誌である。「音楽の友社」なのだから、むしろそれでいいし、そうあるべきだと思う。技術の事はよく解らないが、音楽が好きで、できれば家でもいい音で音楽を聴きたい。そんな人に向けていろんな機材を紹介してくれる。その内容は若干ツッコミ所もあるが、結局決めるのは各自の耳なので提灯記事もアリだろう。その機種を認知し、出会う機会を作ってくれる、そのための雑誌だ。
だからまぁ、僕はLXA-OT3目当てでこれを2冊買ったわけだが、本誌の内容には全く興味がなく、LXA-OT3を出して使うまで袋から出しもせずに丸2年放置していた。
そしてつい先日、用途が発生したためひとつめのLXA-OT3を開封した。その際、表紙のオーディオテクニカの新しいフラッグシップモデルAT-ART9のスタイラス部の拡大写真に目がいった。はて、このカンチレヴァーの光沢は何だろう。アルミでもチタンでもベリリウムでもないな。しかも丸棒っぽい。さてはボロンか。そんな興味から、2年も前の古雑誌を広げてみた。果たしてAT-ART9のカンチレヴァーはボロンの丸棒であった。空芯のART7に対し、ART9はパーメンジュール系のコアを採用したAT-33の譜系に連なりながら、その後の空芯系の技術を取り込んだ野心作、らしい。
正直、磁区が大きくて量子化ノイズのざわめくパーメンジュールコアの音はあまり好きじゃないので特にそれ以上の興味は持たなかった。なので、ここまで余談(なげーよ!)。
折角開いたのだからと、トイレに置いて少しずつ読んでみた。そんな中、バブル期の贅沢な製品を紹介するページで1994年の製品と思しきテクニクスSB-M10000が紹介されていた。ウーファが外郭カウンターになっている。そして「反作用」という語こそ使われていないが「振動が打ち消し合って余分な振動が抑えられ」と、ちゃんとカウンター効果が設計思想に入っていると思える記述が添えられていた。ただしこのウーファはオンキョーSL-1と同様、音響変成器を介しているので、パルシヴな信号に対してどこまで追従できたかは疑問だが、かなりコストをかけて作られているようなので、値段にそぐわぬクオリティではなかろう。しかも、これが埼玉の「テクニカルブレーン」で今(2013年末現在)でも鳴っているという。テクニカルブレーンの黒沢氏はアンプのカウンター駆動の先駆であるGASのGodzillaをちゃんと理解し、その設計者を高く評価なさっていた方だから、スピーカのカウンター駆動もその素性をしっかり見抜いて採用したのだろうな。
更に、1996年に長岡鉄男氏がフルーティスト加藤元彰氏の要請に応えて作ったSS-66「モアイ」が紹介されていた。これのサブウーファ部がどうやら以前から噂に聞いていた長岡氏の外郭カウンターのようなのだ。たまたま買った号にこのふたつの記事が連続して掲載されていたのは本当に偶然なのだろうか。
ところで、LXA-OT1/3も含め、殆どのスイッチングアンプはBTLによるカウンター駆動ステージ2構成なんだぜ。一番の理由は+のみの単電源で直結出力が可能(しかも出力倍増)だからだろうけど、偶数次の歪みをキャンセルできるというのも実は切実だったりする。
Stereo誌もよく読めば技術者でも得るものがあるのだな。見くびっていた。ごめんなさい。