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BTLの「B」

 たまに、BTLを"Bridged Transformer Less"の略と勘違いして記述している記事を見かける。
 BTLは"Balanced Transformer Less"の略である。少し調べれば判る事だが、bridgedと勘違いしてしまう気持ちも判らぬではない。



 昨今BTLは「ブリッジ接続」とも呼ばれる。出力トランジスタがブリッジ回路のような形になるからだ。しかし、BTLのBはbridgeではない。

 BTLは真空管時代に出力トランスを省くための技術として生まれた。真空管の時代には今のトランジスタのようにコンプリメンタリな素子がないから当然、ブリッジ回路に見えるような構成ではなかった。正相・反転でひと組の平衡信号を作り、それぞれの終段から平衡で出力を取り出す。察しのよい人ならもうお気づきだろう。そう、「平衡」の英語は"balance"。BTLは"Balanced Transformer Less"の略なのだ。少なくとも1970年代にはBridgeなんて勘違いした記述は見た覚えがない。

 残念ながら真空管時代のBTLは、トランスによる帯域制限から解放されたものの、出力インピーダンスを充分に下げる事ができず「透明感はあるが力感の乏しい線の細い音」だったようだ。「ようだ」という言い方しかできないのは、僕自身まだ真空管BTLアンプの音を聞いた事がない。今時希少な珍品だもんね。自作する元気もないし。

 現代のトランジスタアンプのBTLをその回路構成から「ブリッジ接続」と呼んでしまうのは間違いとは言えないが、BTLのBをbridgedと勘違いしてしまうならちょっと罪深い事だ。
 BTLのBをブリッジと説明してしまう程度の人の話は正直、どの程度参考になるか疑問だ。そも読む気にもならないので検証してみた事はない。


余談>
 トランジスタアンプのBTLには長い暗黒の時代があった。古いオーディオマニアは「BTLは低音はいいが高音が汚い」という印象を持っている人が多いと思う。これは反転信号を正相側の出力から取っていたせいだ。正相信号と反転信号が時間的にズレてしまうために高音域で音が汚くなる
 世間的には「BTLいいね」と認識されたのはマークレヴィンソンのML-2Lが最初だったと認識している。ML-2Lは「反転入力」を備えていたので正相・反転で時間差のないBTLが構成できたのだと思うが、モノラルアンプ2台によるBTLは正相・反転のアンプユニットの電源が共通ではないため「ブリッジ構成」とは呼び難い。2つのアンプユニット直列接続によるパワーアップ(最大出力電圧が2倍になり、アンプの給電能力が充分なら最大出力電力は4倍になる)はしてもカウンター効果による音質改善は得られない。単に「音を濁さない」だけのBTLだ。それで高評価を得たのはアンプ自体がそれだけ優れていたという事なのだろう。
 電源が共通な2つのアンプユニットで構成したBTL(これは「ブリッジ」に見える)による音質改善(カウンター効果)を最初に積極的に設計に盛り込んだのはGAS(Great American Sound)のGodzillaではないかと思う。その後GASはカウンター効果を最大限に発揮するためClassA Godzillaを出したが国内では正式販売された記憶がない。恐らく、持っている人は個人輸入だろう。
 A級BTLの音質的優位性を積極的に主張したのはヤマハBX-Iの方が早かったのではないかと思う。元祖Godzillaの翌年には出ていたようだから。ただしフィデリックスの中川社長が「A級BTLはうちが世界初」と仰っていたので多分ClassA GodzillaよりもBX-IよりもフィデリックスLB-4が更に早かったのだろう。中川氏は「リアルタイムBTL」という言葉を使っている。正相・反転の時間差が音を悪くする要因である事を理解されたうえでこれまで知られているBTLと差別化しようとしたのだろう。当時、山梨大学の橋口住久助教授(当時)もA級BTL+チョークインプット電源の優位性を説き製作例を雑誌で発表なさっていた。
 スピーカを鳴らすパワーアンプではBTLは部品点数が倍増するせいかメーカーから敬遠され、一部の贅沢な愉しみだった(10万円以下クラスでは20年ぐらいサンスイのXバランスぐらいしかなかった)が、+12V片電源しかないカーステレオの世界ではIC化が進んで部品点数が激減した事もあり、出力に直流阻止用の巨大な電解Cを必要とせず、また出力を±12Vに振れて出力も大きく取れる事から、割と早くから標準になっていった。更にスイッチングアンプ(D級とも呼ばれる。「デジタルアンプ」という認識は間違い)では反転信号を作るのも容易なうえ、偶数次の歪がキャンセルできるというメリットもあって家庭用オーディオにも浸透してきた。ヘッドホン/イヤホンの世界では回路規模が元々小さいのでちょっと注目されたら各メーカー乗り気のようだ。電源電流波形的にSEPPは真空管の直列プッシュプルに劣っていたが、ブリッジ構成のBTLになってやっと肩を並べられる電源電流波形になる。

 その後(80年代後半)、「カウンター効果の得られない(ブリッジ構成でない)BTL」と「BTLでないのにカウンター効果を得られるインテルドライブ」がある状況を整理する目的で「カウンター駆動」という語を作った。インテルドライブがカウンター駆動ステージ1、BTLによるものをステージ2として分類した。更に割と早い時期(80年代の前半)にカウンター駆動はスピーカにも有効ではないかと気づくのだが、(割と最近)実際に実験するまでに30年も放置してしまったのだった。
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by sompi1 | 2016-07-30 04:07 | オーディオ | Trackback | Comments(0)