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夜之音、月之香(よるのおと、つきのかおり)

 劇団パラノイア・エイジ。5月6日(水)、下北沢「劇」小劇場にて。
 この劇団は楽日だからって変なアドリブ大会になったりはしない。だから楽だけ観ても心配はない。今回は打ち上げにお誘い戴いたので楽日の観劇となった。

 元ネタは谷崎潤一郎の「春琴抄」なのだそうだが残念ながら読んでないし映画も観てないのでそもそもどういう話なのかは知らない。この舞台で見るものだけが全ての無学な観客である。しかも、僕はこの舞台を数年前にも観ている…筈なのだ。前回は山岸恵美子さんが出ていたというのだから間違いはない。しかし、それすら覚えていられない年齢になってしまっていた。
 パラノイアというと時代劇のイメージがあるが、GW公演では役者が洋服で登場する話を割とやっているらしい。この雑誌社「桃源新報」の面々が登場する話はシリーズ化していて、他の話も僕は観ているらしいのだが…溜息。

 前回えみ子さんが演じていた白石記者の役を今回は伊藤貴子さんが演じた。舞台で彼女の洋装を拝見する機会も少ない貴重な舞台なのだが、舞台上の彼女は終始「白石記者」であり僕は本番中ついぞ「伊藤貴子」を意識する事はなかった。気づかなかったとか忘れていたとかでは勿論ない。
 僕はこれまで普段の彼女にも、これまで観た舞台上の彼女にも、常に「かわいい」という印象を抱いていた。それがこたびの舞台では全面的に「美しい」に代わってしまっていたのだ。役者というものはこうまで違う人になれるものなのか、いや化けも化けたり…なんて言うとむしろ褒めてない言い方になってしまうな(苦笑)。春琴は感情が高まると子供のような暴れっぷりなのだが、基本「静」の美しさを見せる。対して白石記者は決して粗暴な振る舞いとかしない大人の女性なのだが「活動的」「行動的」といった「動」の美しさを見せてくれる。このふたりの対照的な美しさはこの芝居の要でもあるので、白石は春琴に美しさでヒケをとってはならないのだ。そしてそのうえ、やや神経質なまでに繊細な秋場春琴に大して伊藤白石は線の太いキャラクターで鮮烈な対照を見せてくれた。まことに、お見事。

 舞台の後、本来ならバラしの手伝いをするべきところなのだが、朝から誤算続きですぐに劇場を離れ、結局新宿のネットカフェで昼寝していたのだった。ごめんなさい。でもここで一休みしたお陰で若い連中に混じって朝まで倒れずに楽しく過ごせた。



 打ち上げの会場は下北沢駅からほど近い「分福」。

 打ち上げは22時から朝5時まで。だからこんな張り紙まで出てた。

 さすが下北沢、わかってらっしゃる(笑)。

 折角混ぜて戴いた打ち上げの席上だったのに、僕は佐藤氏とまるで話さず、それどころか近づきもしなかった。だって女の子と話してる方が楽しいんだもーん(笑)。途中どっかのタイミングで佐藤氏と話す間合いもあろうかと思っていたらそのままラストまで突っ走ってしまった。少々残念ではあるが、それ以上に普段あんまり女の子とお話する機会もない身にはシアワセな宵であったのだ。貴子嬢はいくら口説いても糠に腕押し(違)だったけど。

 それにしても、村山巡査のヒゲ跡が青い青いと笑っていたが、ヒゲ剃りからほぼ丸一日経った僕の顔の方がずっとひどいな(苦笑)。

 そんな中で、観劇の感想として「親ってのは子供に自分の生き様、そして死に様を見せるのが重要な仕事なのに、娘の前で自殺しちまう父親ってのはどうにも納得がいかぬ」という僕の意見に対し、照明の沼さんが全く違う見解を示してくれた。曰く、春台は琴子を養女に迎え形式的には親子の体を取ってはいるが、その実春台の視界には最後まで春琴しかおらず、「父親」としての自覚なんかまるで持ってはいなかったのだ、と。なるほど、そう解釈すれば「父親らしからぬ」行動の辻褄は全て合う。春台は琴子に自分しか知らない出生の秘密を告げねばならないが、それは琴子がある程度分別できる大人になるのを待たねばならない。それを遂げた時、春台はこの世ですべき事を全て終え、春琴の後を追える。彼はその時をただ待って生き続けてきたのか。そこで初めてようやく腑に落ちたのだが、ますますやるせなくなってしまったのだった。そして、そのやるせなさこそがパラノイアの、佐藤氏の持ち味であるのでその解釈はむしろ正しいのだろうと感じてしまった。相変わらず「大人の苦味」を提供してくれる。よそでこってり甘いもん食ってこないと、パラノイアだけではすぐに食傷してしまう。だがこの苦味もまた、心が欲するものであるのだ。いずれ単品で完全食なんて不可能なんだから、パラノイアはむしろ変に甘くする事なく、頑固なまでにこの味を通していただきたい。

 この後、新宿駅で始発バスを待って甲府に戻る頃にはすっかり廃人と化していたのは言うまでもない。
Tracked from 下北沢 at 2009-05-20 12:57
タイトル : 下北沢
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by sompi1 | 2009-05-10 14:14 | レヴュー | Trackback(1) | Comments(0)